アトピー性皮膚炎は子どもによく見られる皮膚疾患です
適切な対応をすれば症状を改善させることはそれほど難しくありませんが、悪化要因が多岐に渡り症状が再燃しやすいため、長期間の総合的なケアが必要となります
特に乳児では治療の遅れや不適切な治療により、他のアレルギー疾患発症のリスク因子になるよ!
発症早期からしっかり治療することが大切です
この記事では、アトピー性皮膚炎の原因や症状、治療法や予防法まで解説していきます
アトピー性皮膚炎とは
アトピー性皮膚炎はかゆみのある湿疹が良くなったり悪くなったりを慢性的(乳児では2ヶ月以上、それ以外では6ヶ月以上)に繰り返すのが特徴的で、患者の多くにアトピー素因があります
原因
「アトピー素因がある」とは、家族や自身がアレルギー疾患(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎)を有する、またはlge抗体を産生しやすい体質である場合です
アトピー性皮膚炎の原因は単一ではなく、アトピー素因の様な遺伝的な要素と環境要因が相互に関与しているよ!
環境中のダニなどが皮膚の免疫細胞に異物として認識されると特異的lg E抗体が産生されて、食物アレルギーを発症しやすくなります
皮膚バリア機能障害
重要な発症要因の一つに皮膚バリア機能障害があります
もともと皮膚は外界と接する重要な臓器で、体内に不必要な刺激や異物が侵入するのを防いだり、水分の喪失を防いだりするバリア機能を持っています
このバリア機能が何らかの要因で弱かったり、外界の刺激に過敏だったりすると、外界から侵入した刺激物質により皮膚に慢性的な炎症が起こり、湿疹を形成するよ!
これは発症してからの期間が長いほどリスクが高くなることが報告されています
「バリア機能障害→刺激物質の侵入→皮膚の炎症→痒み→バリア機能障害」
の悪循環となる
発症部位
アトピー性皮膚炎の湿疹は年齢とともに好発部位が変化するよ!
乳児期 | 頭、顔の赤みや滲出液、落屑(角質化した皮膚のハゲ落ち)を伴う病変や、丘疹(小さな皮膚の隆起、ぶつぶつ)で始まり、次第に首や体幹部、四肢の関節部位や伸側に広がる |
幼児期 | 首や四肢の関節部位によく見られる |
思春期以降 | 頭、首、胸、背中などの上半身に湿疹が強く認められる |
適切に治療されない期間が長引くと皮膚が肥厚したり、かゆみの強い痒疹結節を生じたりします
いずれの湿疹も痒みが強いことが特徴です
合併症
アトピー性皮膚炎では、細菌・ウイルス・真菌への局所免疫が低下しており、合併症として皮膚感染症を発症することがあります
黄色ブドウ球菌による伝染性膿痂疹(とびひ)や蜂窩織炎、単純ヘルペスによるカポジ水痘様発疹症、伝染性軟属腫(水いぼ)など、これまでの湿疹と異なる症状が新たに見られる時には注意が必要です
眼周囲の湿疹が重症の場合、白内障、網膜剥離などの重篤な合併症がある場合があるので、眼科の受診しよう!
アトピー性皮膚炎の治療
治療では皮膚バリア機能障害に対するステロイド外用薬を中心とした薬物療法、悪化因子の除去が重要であり、同時に行うことが大切です
全体の治療方針としては、まずしっかり治療して症状がない状態を達成(寛解導入)し、その状態が維持できる様に治療を継続(寛解維持)するよ!
アトピー性皮膚炎は慢性疾患であり、寛解導入後すぐに治療を止めると再燃を繰り返すことがあります
根気よく治療を継続することが必要です(プロアクティブ療法)
最近、小児適応のある外用薬や内服薬が新たに承認され治療の選択肢が増えました
ステロイド外用薬
抗炎症作用があるステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎治療の基本だよ!
皮疹の重症度や部位に応じたランクのステロイド外用薬を使用することが重要です
外用療法では塗布量、塗布回数、塗布方法などにより治療効果に大きな差が生じます
急性増悪時には1日2回塗ろう!
症状が改善しない場合には指示通りの方法で使用しているかどうか確認が必要です
プロアクティブ療法
アトピー性皮膚炎の治療でステロイド外用薬によりすぐに症状が改善するものの、治療を中断するとすぐに悪化するためにステロイド外用薬の治療を定期的に繰り返すことになる場合があります
これは治療により症状が改善した様に見えても、アトピー性皮膚炎は慢性疾患であり潜在的な皮膚の炎症が残っている状態であるために、治療の中止により炎症が再燃しているのです
潜在的な炎症が消失して正常な皮膚になるためには、寛解維持を継続することが必要で、ステロイド外用薬を完全に中断するのではなく、間欠的に使用することにより再燃を防ぐことができる
これをプロアクティブ療法と呼びます
寛解時期にはステロイド外用薬以外に、他の抗炎症外用薬を使用する場合もあるよ!
ステロイドの副作用
ステロイド外用薬は治療効果が高い一方で、長期の使用により皮膚萎縮、皮膚線条、多毛、皮膚感染症などの局所的副作用が見られることがあります
しかし多くは可逆性であり、適切な管理のもとに使用して、必要に応じて他剤へ移行するなどにより、重篤な状況を回避することができます
副作用を心配するあまり、自己判断で塗布量や回数を減らしてしまわないようにしよう!
ステロイド外用薬以外の抗炎症外用薬
タクロリムス軟膏に加えて、最近承認されたデルゴシチニブ軟膏、ジファミラスト軟膏はステロイド外用薬とは異なる機序で炎症を抑制する作用があります
ステロイド外用薬の副作用回避や効果が不十分な場合などに使用されます
抗ヒスタミン内服薬
アトピー性皮膚炎では痒みが主な症状であり、患者の掻破行動やQOL低下にも大きく影響します
そのためかゆみに対する対処療法として抗ヒスタミン薬の内服薬が実臨床では使用されています
ただしアトピー性皮膚炎ではヒスタミン以外の経路の痒みがあることが知られており、抗ヒスタミン薬だけで痒みを完全に抑制することはできないよ!
抗炎症外用薬の治療と併用することが必要です
重症患者を対象とした薬剤
既存のアトピー性皮膚炎治療では効果不十分な重症患者に対して、最近小児でも12歳以上でJAK阻害薬内服薬、13歳以上でネモリズマブ注射剤が使用できるようになりました
ただしこれらの薬剤の使用には制限があり専門医による治療が必要です
家庭でのケア方法や留意点
悪化因子の除去
悪化因子の除去はアトピー性皮膚炎治療の三本柱の一つです
発症や増悪には患者により様々な要素が関与していると考えられます
ダニ、カビ、花粉、ペットの毛などの環境中のアレルゲンに感作されている(特異的lgE抗体を産生している)場合には、これらの抗原への暴露で皮膚症状が悪化することがあります
日常生活においてこれらの抗原を減らすための対策としては、環境整備をする、布団に防ダニシーツをかける、フローリングにする、ペットを隔離するなどがあるね!
季節変動がある場合
症状に季節変動がある場合には気温や湿度、乾燥、花粉、汗などが関与している可能性があります
発汗そのものは皮膚の正常な機能ですが、汗が皮膚に付着したままになると刺激になることがあるので、余剰な汗を残さないようにシャワー浴をする、着替える、清拭するなどの対策を行います
使用している石鹸やシャンプー、リンス、特定の衣類などが刺激となり皮膚症状を悪化させたり改善を阻害したりしていることがあります
悪化因子を正確に判定するのは簡単ではありません
日常生活において注意深く観察することが必要だね!
アトピー性皮膚炎の発症予防
そもそもアトピー性皮膚炎を予防することはできるのでしょうか?
アトピー性皮膚炎を発症した乳児では発症前に皮膚バリア機能障害が認められることから、生後からの保湿剤の塗布による発症予防効果が研究されてきました
国立成育医療研究センターの研究では、アトピー性皮膚炎の家族歴がある新生児を、保湿剤を連日全身に塗布する群と必要時に局所のみに塗布する群にランダム化割付して追跡調査したところ、生後32週までのアトピー性皮膚炎の発症が保湿剤塗布により優位に減少したと報告されました
しかしその後の海外での介入試験では予防効果がないという結果も次々に発表されていて、結論は出ていません
研究ごとにスキンケアの方法やアドヒアランス(患者の意思による治療行動や服薬の遵守)、生活習慣などが異なる点も影響しているかもしれません
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