早産や低出生体重児のお子さんを出産された方は未熟児網膜症という言葉を医師から聞いたことがある人が多いと思います
しかし未熟児網膜症という言葉には馴染みがない人がほとんどだと思います
この記事では未熟児網膜症の基本的な情報から治療まで説明していきます
未熟児網膜症とは
未熟児網膜症は、発達途上の未熟な網膜血管に起こる血管増殖疾患で、一般に在胎32週未満、出生体重1500g以下の未熟児に発症する
網膜血管は胎生14週頃に視神経乳頭部から発生し始め、網膜内装を周辺部(眼球の前方)に向かって成長し、満期(40週頃)までに最周辺部まで成長が完了します
成長途上の網膜血管は、まだ伸びていない無血管領域から適度の血管内皮増殖因子が放出されて成長が誘導されますが、未熟児網膜症では血管内皮増殖因子が過度に放出されて病的な血管の新生と増殖が起こります
増殖が進行すると、牽引性網膜剥離を起こし失明するよ
在胎週数、出生体重が少ないほど未熟児網膜症の発症率が高く、重症化しやすくなります。
未熟児網膜症による視覚障害
未熟児網膜症は視覚障害児の原因疾患の約18%を占める(全国視覚特別支援学校調査)主要疾患です
超低出生体重児の救命率の向上に対し、呼吸管理の向上、栄養管理の強化、輸血の回避などの新生児医療の進歩によって、2008年以降、未熟児網膜症の発症率・治療率は有意に低下しました
しかし視覚障害をきたす重症型の発生は阻止できず、依然として治療予後不良となる例もあります
未熟児網膜症の2つのタイプ
未熟児網膜症は1型と2型に大別されます
1型
1型は病期が段階的に緩除に進行するタイプです
①無血管領域と有血管領域の境界線形成 ②境界線隆起と新生血管の発芽 ③新生血管が硝子体内へ立ち上がり繊維血管増殖 ④増殖組織の牽引による網膜部分剥離 ⑤網膜全剥離
自然治癒する症例も多く存在しますが、stage3となり進行する場合には治療が必要になるよ!
2型
一方2型は網膜血管が非常に未発達で、網膜全周および後極部(中心部)に増殖病変を生じ、急速に網膜剥離へと進行する予後不良のタイプです
初期病変を捉えて直ちに治療を行う必要があります
レーザー光凝固による治療
未熟児網膜症に対する標準的な治療法はレーザー光凝固だよ!
未熟児網膜症の病型と病期を診断し、網膜血管の進展と病変の部位、進行度など国際的な基準に従って治療適応を決めます
治療法
網膜の無血管領域に光凝固を施行し、血管内皮増殖因子の放出を抑えることで未熟児網膜症の退縮を図ります
治療効果
光凝固治療を十分に行うと、1型では大部分の未熟児網膜症が鎮静化しますが、2型では、直ちに光凝固治療を行ってもしばしば再燃が起こり、早期に硝子体手術の適応となります
また2型では、胎生期の硝子体血管や水晶体血管膜の遺残が顕著で瞳孔が強直しており、光凝固が十分に行えない例や、全身状態が悪く長時間の治療に耐えられない例もあります
そのような場合には、急速に網膜剥離が進行し、極めて重篤な視覚障害をきたします
1型には有効だが、2型は予後が悪い
未熟児網膜症に対する新たな治療法
近年、未熟児網膜症に対する薬物治療法として、抗血管内皮増殖因子薬の硝子体内投与が試されるようになったよ!
抗血管内皮増殖因子療法
ベバシズマブ注射
抗血管内皮増殖因子療法として最初に使用された薬はベバシズマブで、1型のうち血管発達不良のタイプではベバシズマブ注射が光凝固より有効であるとの結果が示されました
未熟児の発達途上の神経系や肺に対する抗血管内皮増殖因子薬の安全性は確立されていないよ!
ラニビズマブ注射
2017〜18年に硝子体内の半減期の短い抗血管内皮増殖因子薬であるラニビズマブに対する国際共同治験が行われ、ラニビズマブ0.2mg注射と光凝固治療に有意差が出たこと、注射後の血中血管内皮増殖因子濃度は14日目には低下を認めないことが示されました
2019年11月に未熟児網膜症に対するラニビズマブ0.2mg硝子体内注射が本邦でも許可され、新たな治療の選択肢になったよ!
抗血管内皮増殖因子療法の有用性と課題
一方、稀な合併症として注射による眼内炎や白内障があります。
また、最大の問題は投与後の未熟児網膜症再燃です
追加治療の必要性
ラニビズマブ投与後の約31%は再燃による追加治療が必要となり、再治療の時期は投与後4〜16週に及びます
重症型では早期に光凝固による追加治療を要します
特に2型未熟児網膜症は、抗血管内皮増殖因子療法単独では治療困難で、75〜87.5%に追加治療を要します
投与後1年間は頻回の眼底検査を要するため、患児や家族への負担が問題となるね!
まとめ
抗血管内皮増殖因子療法は、これまで治療困難であった重症例に対し、硝子体手術の回避と予後向上に結びつくと期待されます
長期的な全身への影響を検証していくこと、最適な治療法とフォローアップの方法を確立することが今後の課題です
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