【支援者向け】EPDS・ボンディングを用いた周産期のメンタルヘルスの支援

産後の母子への支援では、エジンバラ産後うつ病質問票や赤ちゃんへの気持ち質問票を用いることが多いですが、適切に活用できていますか?

正しい使い方をすることで、支援が何倍も楽になります

この記事では、産後のメンタルヘルスの基本や関わり方のコツを紹介していきます

この記事がおすすめな人

・周産期の支援に携わる人
・メンタルヘルスに関わる人
・母子支援に携わる人

妊娠中・出産後は心の不調をきたしやすい

女性の一生のうちで、妊娠中や出産後は、うつ病が起こりやすい時期

女性の5人に1人が一生のうちに一度はうつ病にかかります

女性は男性の2倍うつ病にかかりやすいです

カバさん
カバさん

産後うつ病の発症率は10〜15%と極めて高率!

妊娠・出産による生活スタイルの変化

・妊娠のため、仕事を辞めないといけない
・出産後、日中赤ちゃんと二人きりでいないとならず友達ともなかなか話せない
・赤ちゃんの世話で忙しく、自分の時間が持てない

妊産婦がうつ病に陥ると

育児困難感をきたしやすく、養育不全、児童虐待のリスクとなります

母親の自殺企図、嬰児殺し、母子心中につながることもあります

マタニティブルー

産後2〜3日目に30〜50%の褥婦が、情緒不安定になったり、不眠、抑うつ気分、不安感、注意散漫、イライラ感などの精神症状を経験する

これらの症状のピークは産後の5日目ごろで、10日目ぐらいまでには軽快します

胎盤からの女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少するなど、生理的要因が強く関わっています

周産期のうつ病

産褥期はうつ病の好発時期です

既往の精神疾患(単極性及び双極性気分障害、周産期精神疾患)の周産期における発症率は高いです

カバさん
カバさん

産後うつ病を発症した女性の2人に1人が次回出産後に産後うつ病を再発するよ!

産後うつのリスク因子

精神疾患の既往(特に現在通院中であること)、ソーシャルサポートの乏しさ、大きなストレスイベント、他にも初産婦、家族のまとまりを感じられないなどがあります

カバさん
カバさん

体の病気の治療を受けていることも、精神的なストレスになりやすいよ!

産後、育児をしていく上でも、持病の存在は母親にとって心身の負荷になりやすく、産後うつ病のハイリスク要因として注意が必要です

ソーシャルサポートがない

実母・姑とも遠方に住んでいるため手伝ってもらえない、実母と不仲で手伝いを頼みづらい、パートナーがいない、夫は仕事が忙しくてほとんど家にいないなどがあります

大きなストレスイベント

引越し、離婚、義父母と同居、失職・離職などがあります

産後養育不全をきたしやすい母親

・コミュニケーションが不自然

・注意が散漫で、スタッフの話が抜けていきやすい

・多弁で忙しない

・身の回りがだらしない

・子どもが多くて、手が回らなさそう

・家族が育児に関わらない

スクリーニング

育児支援のためには、まず、母親が赤ちゃんに対してどのような気持ちを抱いて接し、ケアをしているか把握することが重要です

「育児支援チェックリスト」「EPDS」「赤ちゃんへの気持ち質問票」の3つの質問票の活用が有効です

質問票を活用した支援について詳しく知りたい方はこちらを参考にしてください↓
「【支援者向け】3つの質問票を活用したメンタルヘルスケア」

エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)

EPDSとは

うつ病によく見られる症状をわかりやすく質問にしてあり、感便で国内外で広く使われています

10項目の質問からなり、それぞれに、0、1、2、3点で、母親に自己記入してもらいます

母親が記入後、その場でEPDSの合計点数を出し、合計は30点満点で、日本では9点以上をうつ病としてスクリーニングしています

高得点になるのは、産後うつ病の母親だけではなく、何らかの精神的な問題を抱えるために育児に障害をきたし、虐待のリスクを持つ母親も、EPDSは高得点になる

面接での使い方

9点以上の場合は、1点以上がついた質問項目について詳細に聞き取りを行い、母親の抱えている問題点について聴取していきます

症状があると回答された質問項目に対して詳細な聞き取りを行うことで、母親の話を十分聞くことになり、精神支援にスムーズに導入できます

カバさん
カバさん

追加質問に答えていくことで、母親自身の心の整理にもなるよ!

EPDS評価尺度の因子構造

興味・喜びの消失

質問1「笑うことができたし、物事の面白い面もわかった」
質問2「ものをとを楽しみにして待った」
はうつ病の基本症状の一つの「興味喜びの消失」があるかどうかを聞くものです

EPDS9点以上の高得点者の中で、産後うつ病と精神科診断がつく人は、ほとんどの場合、質問1、2で何らかの点数がつきます

不安について

カバさん
カバさん

質問3〜6は産後うつ病でなくても、子育てに慣れておらず忙しい時は、点数がつきがちだよ!

質問3「物事がうまくいかないとき、自分を不必要に責めた」
は「不必要に」がキーワードです

これに点数がついた母親には、その内容を具体的に聴取して判断していきます

うつ病の場合、根拠なく自分を責めて、うまくいかない、些細なことに悩み、いつのことを繰り返し思い悩み、クヨクヨ考え込むようになる

質問4「はっきりした理由もないのに不安になったり、心配したりした」
は「理由もないのに」が大切です

家事で手が離せずに泣いている赤ちゃんに対応できない時、赤ちゃんのことが不安になることなどは、「理由のある不安」で、メンタルヘルスの見立ての上では問題ないです

うつ病の場合の不安は、理由のない漠然とした心配がある

質問5「はっきりとした理由もないのに恐怖に襲われた」
は質問4と同様、「理由もないのに」がキーワードです

例えば、別室にいて、「子どもが息をしているだろうか」と様子を見にいくのは正常範囲

うつ病場合、捉え所のない恐怖や死の恐怖など色々な恐怖感が理由もなく出現する

質問6「することがたくさんあって大変だった」
はうつ病になると、脳機能低下が起こり、集中力が低下したり、物事を計画立てて効率よく行うことが困難になります

そのような状態に陥っていないかをチェックしましょう

出産後の母親は、誰でも大変なため、多くの健康な母親でもこの項目にあてはると答えます

状況や内容、母親の実際の行動を具体的に聞き出すことで、母親の不安の解消につながる

抑うつ気分

質問7「不幸せな気分なので、眠りにくかった」
はうつ病による睡眠の障害を質問です

育児や家事が忙しすぎて眠る時間が足りなかったり、子どもの夜泣きのために眠いのに眠れていないのか、うつ病による不眠なのかを質問しましょう

「床に入ってから眠りにつくまで、どのくらい時間がかかりますか?」
「朝、早く目覚めてしまいますか?」
「眠っているが、熟睡考えられないのですか?」
「眠れないことで、すごく疲れていますか?」
「昼間に時間があれば、睡眠を取ることができていますか」
の質問をしましょう

夜間の不眠を昼寝によって解消することができているなど、不眠の状況を総合的に把握する

質問8「悲しくなったり、惨めになったりした」
質問9「不幸せな気分だったので、泣いていた」
はうつ病の基本症状の1つである抑うつ気分について尋ねています

カバさん
カバさん

この項目に該当する母親の場合には、その状態について注意深く聞くことが大切だね!

どういう状況の時に、悲しくなったり惨めになったりすることがどのくらい続くのか尋ねるようにしましょう

はっきりした理由は本人にもわからないけれども、1日の大半で、悲しくなったり涙が出るのは、うつ病の母親が経験する抑うつ症状

自殺念慮

質問10「自分自身を傷つけるという考えが浮かんできた」
自殺念慮自殺企図の有無を確認するための質問です

この質問が陽性点数であれば、1点出れば、総合点がたとえ9点以下でも、内容を具体的に聞く

自殺念慮を聞くことを躊躇する医療スタッフは多いですが、自殺につながるリスクは、自殺念慮を質問することよりも、死にたいほど辛い気持ちを語ったのに手を差し伸べてもらえなかった時の方が遥かに危険です

①内容の質問

Q「最近、一番そのような気持ちになったのは、いつ、どんな状況でしたか?」

A「3日前に、子どもがどうしても泣き止まなかった時です」

②どんな考えが浮かんだか確認

Q「自分をどうしようと考えましたか」

A「ベランダから、子どもと一緒に飛び降りて死のうと考えました」

③具体的に実行したか確認

Q「その後、どう行動しましたか?」

A「飛び降りようとして、ベランダの手すりまで行き、下をのぞいたところで、ハッとして飛び降りた後のことを考えて思いとどまりました」

④本人を支える人の確認

Q「自殺を考えた時に、助けて欲しいと言える相手が身近にいますか?」
「そばにいなくても、電話などで連絡が取れて話を聞いてもらうことができる人がそばにいますか?」

⑤ヘルプを実際に求めたか確認

Q「そんな辛い気持ちになったことを、後で旦那さんや家族に話しましたか?」

EPDSを用いた支援についてより詳しく知りた方はこちらを参考にしてください↓
「【支援者向け】エジンバラ産後うつ病質問票の基礎知識と産婦の支援について」

赤ちゃんへの気持ち質問票

赤ちゃんへの気持ち質問票でわかること

合計点が高いほど母親は子どもに対して何らかの否定的な気持ちを抱いている

質問3、5の点数が高い場合は、母親の赤ちゃんに対する怒りが強く、虐待傾向が疑われます

カバさん
カバさん

目安として、質問3、5が両方とも1点以上の場合は、虐待のリスクを念頭に援助をしよう!

質問2、3、4、5、6、7、10が陽性で高得点となっている場合は、抑うつ症状との関連が深いです

愛情の欠如:質問1、6、8、10

異界・拒絶:質問2、3、5、7

赤ちゃんが腹立たしく嫌になる

質問3「赤ちゃんのことが腹立たしく嫌になる」
は「たまに少し」「たまに強く」の場合頻度を尋ねます

カバさん
カバさん

頻度が高い場合は要注意!

「ほとんどいつも強く」の場合はどんな時に嫌な気持ちになってしまうのか質問します

心理的な負担を推測し嫌な気持ちがとても強い場合のストレスはどうやって処理しているのか尋ね、厳重なフォローアップの対象となります

赤ちゃんに対して怒りが込み上げる

質問5「赤ちゃんに対して怒りが込み上げる」
は怒りっぽいと感じた最近の出来事、その時の状況を質問し、子どもに対する怒りがピークに達した時にどう対処したのか尋ねます

子どもに対する危険な行為を母親が話したときは、
「(怒りの感情を)よく話してくれましたね。そういう気持ちになった時にどうやって対処するか、一緒に考えましょう」
などと話すと良いです

その気持ちを周囲の人に話して、母親の気持ちを理解している人がいつも周りにいることを母親に知ってもらう

非常に強い怒りの気持ちが湧いたときは、まずは気持ちが落ち着くまで子どもからしばらく離れることを勧め、厳重なフォローアップの対象となります

愛着の形成についてより詳しく知りたい方はこちらを参考にしてください↓
「【支援者向け】周産期ボンディングへの支援のコツ4選」

精神科受診の勧め方のポイント

・弱さや怠けではなく病気の状態である

・出産後のホルモンバランスの乱れなどが関係している

・出産した母親の10〜15%がかかる

・うつ病のサインについて

・休養と治療で楽になる可能性が高い病気である

・子どものためにも治療が必要

・心の問題についての母子保健関係者自身のスティグマへの気づきも重要

受診を拒否された場合

うつ病を疑われる人が受診を拒否した場合は、うつ病や薬についての説明、精神科医療についての情報提供など根気よく説明することが大切です

時には、本人だけでなく家族が反対している場合もあるので、このような場合には家族の理解を得ることが必要になります

産後うつ病に対する対応・治療

産後うつ病の治療には環境調整、薬物療法、心理療法が用いられます

本人・家族と治療について本人・家族に必要な情報を提供しつつ、本人・家族の意思を尊重しながら一緒に治療を選択していくことが望ましいです

産後うつ病の環境調整

妊産婦を取り巻く環境を、家族を交えて一緒に整理しましょう

「何は今やらなくても済むか」
「何は周囲のサポートを得れば良いか」
といった環境調整を図ることが、うつ病治療の第一歩です

カバさん
カバさん

本人の負担をできるだけ軽くするようにし、心身の休養に専念させてあげるようにしよう!

良眠は回復に非常に重要なので、夜間の授乳については、夫や実母・姑が搾乳した母乳・ミルクをあげてもらうようにするのも良いです

母乳のトラブルは大きな精神的ストレスにつながりやすいです

授乳についての相談は、母親の心理的ケアとしても非常に大きな意味を持つ

薬物療法

うつ状態が強ければ精神科治療が必要になります(生活に支障が出ているかが一つの指標)

授乳中の薬物療法は、リスク・ベネフィットを考えて実施されます

カバさん
カバさん

必要があれば、本人と相談して本人の納得の上で躊躇わず行うのが一般的だよ!

薬を飲んでいれば授乳は避けた方が良いと言われると、多くの母親は薬を飲まなくなってしまうため、精神状態悪化のリスクとなります

休薬をする場合は注意深い症状モニタリングが必要です

症状再燃の兆候があれば、速やかに精神科医療機関に相談する

心理療法

認知行動療法、対人関係療法の有効性のエビデンスがあります

うつ病の可能性がある人と話をする時のポイント

・時間も場所もゆとりを持ったところで話を聞く

・プライバシーには十分配慮する

・辛い気持ちに共感しながら、話に耳を傾ける

・励まさないで、相手のペースで話を進める

・相手が色々な話ができるような形で質問する

・不明な点を質問しながら、具体的な問題点をはっきりさせて解決方法を一緒に考える

支援者として大切なこと

支援者のメンタルヘルス

長期にわたるケースでは、すぐに結果が得られるとは限りません

支援の経過の途中での見直し、ケースカンファレンスによる意見の交換が重要

難しいケースではスーパーバイズなどが有効です

カバさん
カバさん

支援者自身が精神的に疲弊してしまうことを予防する必要があるね!

カンファレンスなどを通し、同じ立場の同僚などに支えられることも重要です

一つの職種だけで難しいケースを抱え込むことは危険で、支援者自身の精神的疲弊にもつながる

「何か気になる」という感覚

スクリーニングの限界を念頭に置き、目の前の母子のニーズに適合した支援が必要です

一番大切なのは、関わる中で「何か気になる」という感覚です

そのような感覚や臨床的な目を養うために、スクリーニングを外的な基準の参考にしていくと良いです

表面化されていることだけでなく、その人全体を見る

支援の力を伸ばす

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まとめ

今回は周産期のメンタルヘルスの支援のポイントを解説してきました

今回の記事の要点をまとめると、以下の2点があります

まとめ

①周産期はメンタル不調をきたしやすく、環境も大きく影響している
②スクリーニンングを活用して、各質問項目について詳細に聞き取りしながら、母の気持ちを整理し、支援する

周産期の支援についてより詳しく知りたい方はこちらを参考にしてください↓

「【支援者向け】心に不調を抱える妊産婦の地域での支え方」
「【支援者向け】多職種が連携した妊産婦のメンタルヘルスケア」
「【支援者向け】心の不調のある妊産婦のケア」
「【支援者向け】妊産婦のメンタルヘルスの支援に必要なこと」
「【支援者向け】妊産婦のメンタルヘルスケアと産後ケア」

この記事が、少しでもお役に立てたのであれば嬉しいです

最後までご覧いただきありがとうございました

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