母子健康手帳の中にある便色カードを見たことはありますか?
知っているけど使ったことがないという方はお子さんの疾患の兆候を見落としてしまうかもしれません
この記事では、便色カードの活用法から胆道閉鎖症についてを解説していきます
乳児の便
胎便
生後48時間以内に新生児から排泄される便を胎便と言います
胎内及び出生時に飲み込んだ羊水や腸管の分泌物、胆汁色素、脂肪、コレステロール等が主な成分であり、粘稠、無臭で、緑かかった黒色をしています
移行便
生後2〜4日目頃は、乳汁を飲み始め、黒緑色の胎便と黄色便の入り混ざった便が出て、次第に黄色みが強くなっていきます
これを移行便と言います
正常便
胎便が全て排出され乳汁を十分に飲むようになると、黄色から茶色の顆粒便になり、一時は1日に何度も便が出ることもあります
これが正常便です
授乳法による便色の違い
便色は栄養法によって異なり、母乳栄養のみの児の便色は、人工栄養児に比べて黄色みがやや強いと言われているよ!
これは胆汁色素である黄色のビリルビンが、腸内で酸化されて緑色のビリベルジンになるためです
児の機嫌が良く、食欲があれば心配ない
胆道閉鎖症について
胆道閉鎖症は、新生児および乳児の肝外胆管が、原因不明の硬化性炎症によって閉塞するために、肝から腸へ胆汁を排出できない疾患
出生九千人に一人が罹患する稀な疾患ですが、同年齢の肝・胆道系疾患の中では死亡率が最も高いです
胆道閉鎖症の症状
胆道閉鎖症の主な3つの症状は生後14日以降も続く黄疸、淡黄色便、濃黄色尿です
黄疸
新生児の90%に見られる生理的黄疸は生後14日までに肉眼状消失しますが、胆道閉鎖症の黄疸は消失せずに持続する、あるいは一旦消失したものが再び現れてきます
生後1か月ごろの患児の黄疸は皮膚や白眼の部分がくすんだ黄色なので見逃されやすい
淡黄色便
淡黄色便は最も得意的な症状の一つだよ!
胆道閉鎖症の患児の70〜80%は生後4週までに便の黄色調が薄くなって淡黄色になり、残り20〜30%も多くは生後2か月までに淡黄色を発症します
濃黄色尿
濃黄色尿は胆汁色素であるビリルビンが尿中に出ることによるもので、病初期から認められる症状
黄疸が著明な時には尿が暗褐色になります
出血
胆道閉鎖症では、頭蓋内や消化管にビタミンK欠乏による出血を起こすことがある
ビタミンKは胆汁中の胆汁酸によりミセルとなって腸で吸収されます
しかし胆道閉鎖症では胆汁が腸に流れないため、ビタミンKの吸収が不良になるのです。
ビタミンKは血液の凝固を助けるので、これが不足すると出血を起こします
頭蓋内出血では突然の哺乳力低下、意識レベルの低下等の重い神経症状が出ることがあるよ!
胆道閉鎖症の検査・診断
腹部超音波検査、十二指腸液検査などを実施して、これらの結果から胆道閉鎖症を否定できない場合に、開腹手術を行い、外科医が肉眼で見た所見または手術的胆道造影によって診断を確定します
開腹するまでは診断できないんだね!
胆道閉鎖症の治療
診断確定に引き続いて、肝門部空腸吻合術を行います
これは閉塞した索状胆管組織を一塊として切除し、肝門部に小腸をRoux-Y吻合します
この手術の第一の目標は黄疸を消失させること、第2の目標は黄疸が消失したら、自分の肝臓で長期生存することになるよ!
胆道閉鎖症の予後
肝門部空腸吻合術1年後の転帰は、黄疸なく生存が約58%、黄疸有生存が約12%、移植生存が約25%、死亡が約5%です
黄疸の持続する患児はやがて胆汁性肝硬変、慢性肝不全となって、肝臓移植をしなければ死亡する
手術によって黄疸が消失する患児には上行性胆管炎や、食道・胃静脈瘤破裂等による消化管出血を繰り返す場合と、そうした合併症の少ない場合があります。
後者の場合には健常児と変わらない生活の質を得て、20歳以上に達する患者もいます
胆道閉鎖症の早期発見の重要性
術後20年生存率は手術時日齢と負の相関があります
生後60日以内 | 43% |
61〜90日 | 33% |
91〜120日 | 25% |
121〜150日 | 7% |
151日以降 | 0% |
胆道閉鎖症の患児を早期発見、・早期手術することが重要な理由はここにあります
しかし生後60日以内に手術を受ける患児は、全体の約40%に過ぎないよ!
淡黄色便の他の疾患の可能性
淡黄色便は胆道閉鎖症、先天性胆道拡張症のような胆管の閉塞のある児で認められます
これらを放置すると肝硬変をきたすので早期手術を必要とします
これらの全ての疾患において、ビタミンKが腸から吸収されにくい病態を持つため、ビタミンK欠乏による頭蓋内出血の危険があります
淡黄色便を認める児は、直ちに入院・精査・治療の必要があるということだね!
便色カードの活用
使用方法
日中の明るい部屋で、おむつについている児の便に便色カードを近づけて色を見比べ、最も近いと思う便色番号を判定してください
カードの右側の部分を切り取り線で切り取ると比べやすくなるよ!
夜間でも昼光色の明るい照明の部屋で比べるなら大丈夫です
おむつの周囲に、色彩感覚に影響を与えるような派手な色のものを置かない
生後5か月になるまでは、便の色や形等を日頃からよく観察する習慣をつけよう!
便色カードには便色を見比べた結果の記録欄が3つあり、生後2週間、生後1か月、生後1〜4か月に、便色に最も近いと思う便色番号を、必ず3回ともカードに記入してください
生後1〜4か月と幅を持たせてありますが、生後2か月がおすすめ!
(胆道閉鎖症の大部分の患児が生後2か月までに淡黄色便を出す)
便色の判定後の対応
1〜3番に近い場合
1日も早く、その便を持参して、1か月児健診を担当する予定の医師を受診して、便と便色カードの色を見比べてもらおう!
すでに1か月児健診が終わっている場合には、健診を担当した医師または小児科専門医が常勤する病院の小児科を受診してください
4〜7番に近い場合
4番なら安心というわけではありません
その後、便色が薄くなって1〜3番に近づくかどうかに注目しよう!
1〜3番に近づいてきたと思ったら、その便を持参して、医師に見てもらいましょう
反対に4番から5〜7番に近づく場合は、その時点で胆道閉鎖症の可能性はまずありませんが、生後5か月になるまでは便色チェックを続けてください
便色カードに関するQ&A
便の色が毎日変わる
健康な新生児の便は、緑がかった黒色の胎便、胎便と黄色の正常便が混ざった移行便から黄色顆粒状の正常便に変わっていきます
その後も便色が変わることはあり得ますが、特に黄色みが薄く見える場合、特に1〜3番に近い時にはご注意ください
気になるようでしたら最寄りの医療機関に見てもらおう!
粒々の白い便が混じる
白い粒状の凝乳(凝固した乳汁)が混じっていて、一時的な変化であれば心配ありません
便の一部ではなくて、一様に1〜3番のような便色であれば、要注意ですので、1日も早く、1か月児健診を担当する予定の、あるいは担当した医師を受診し、小児外科専門医を紹介してもらってください
便色が3番と4番の中間の時
迷ったら小さい方の数字の便色番号を選択してください
この場合、判定は3番として、1日も早く、最寄りの産科または小児科に便を持参し、医師に便色カードと色を見比べてもらってください
カードは胆道閉鎖症のためだけ?
そのためのものですが、それ以外の疾患の患児の一部も一緒に見つけられています
先天性胆道拡張症、新生児肝炎(症候群)、アラジール症候群、シトリン欠損症、敗血症・尿路感染症、先天性代謝異常、染色体異常、進行性家族性肝内胆汁鬱滞などの疾患も見つかることがあります
胆道閉鎖症と母乳の黄疸の違い
母乳性黄疸の児の便は4〜7番に近い色ですが、精査や治療を急ぐ胆道閉鎖症の児の便は1〜3番であることが大きな違いだよ!
皮膚や白眼部分が黄色く見えるのが黄疸です。
ビリルビンという胆汁中の色素が、脂肪組織に溜まって黄色く見えます
母乳性黄疸
母乳性黄疸は明るい黄色調で、血液(正確には血清)中の間接型ビリルビンが主に増えています。
生後1か月ごろの黄疸の中で最も頻度が高く、経過を見ていると生後3か月ごろまでに軽快します
胆道閉鎖症児の黄疸
生後1か月ごろの胆道閉鎖症患児の黄疸は、血液(正確には血清)中の総ビリルビンの増加が比較的少なく、血清直接型ビリルビンが主に増えて(総ビリルビンの20%以上または直接型ビリルビンが1.5mg/dl以上)いて、くすんだ黄色なので目立たないことから見逃されることが少なくありません
胆道閉鎖症の患児の便は白色?
発見が遅れて生後2か月、3か月になった胆道閉鎖症の患児の便は、白色あるいは灰白色になっていることがあります
生後1か月の時に便が白くないから胆道閉鎖症ではないと思い込むのは危険だね!
コメント