虐待を予防するには、妊娠期からの支援が大切です
妊婦に注ぐ温かい眼差しを保持すること、虐待未発生の段階である妊娠中そして妊娠前から、我々は必要な支援をどのように届けるべきかを考える必要があります
この記事では、虐待の現場から支援について解説していきます
虐待死の現状
子どもの虐待死は0歳児の割合が常に5割前後を占め、中でも日齢0日(生後24時間未満)、つまり生まれた直後に命を絶たれてしまう嬰児殺は2割ほどを占めます
死に至った虐待種別で見ると、第1次〜第15次報告では身体的虐待の割合が多かったですが、第16次報告以降は、ネグレクトの割合が身体的虐待を上回っています
養育者の背景
特に嬰殺児、0か月殺害は、自宅等での出産であり、医療機関にもかからず周囲に妊娠したことを相談することすらできないなど、社会的孤立状態にあったことが考えられるよ!
虐待の原因
虐待相談件数等からは、子ども虐待は小中高生も含めあらゆる年代で報告されていますが、乳児は、身体的にも経済的にも社会的にも、養育者との関係では圧倒的な弱者です
この圧倒的弱者を守るためには、虐待の原因分析で、貧困など「社会病理」の視点に加え、親の精神状態や生育歴など「家族病理」や「精神病理」と母ー胎児間愛着を評価するなど、専門家のより適時適切な判断と関与が求められます
支援のスタートはどこからか
行政機関(保健所や保健センター)が妊婦とファーストコンタクトの機会を得るのは、妊娠届出が提出され、妊婦に母子健康手帳(以下母子手帳)を交付する場面が多いです
母子手帳の交付
母子手帳は妊娠初期(11週未満)の申請・交付が推奨されており、9割がこの水準に達し、維持できています
多くの自治体で母子手帳の工夫を保健師や助産師が面接を兼ねて行い、喫煙の有無や経済状況、親のメンタルヘルスなどについての情報をアンケート形式で収集しているので一定程度のリスクを把握できます
母子手帳を受け取るまでのハードル
母子手帳を受け取るまでにハードルを抱える妊婦がいます
産みたくないが産めない、産めないが産まない決断に至れないなど妊娠に戸惑い、妊娠継続に関わる困りごとに悩み迷っている妊婦だよ!
予期せぬ妊娠の結果、中絶に抵抗や恐怖感を抱き、消極的理由で出産を選んでいる場合もあります
家族間葛藤があり、妊婦自身が10代で家出をして男性に依存したり、アルコールやギャンブルなどの依存症になったりすることもあります
親に相談すらできずに悩んでいる場合もあるよ!
妊娠葛藤への支援
妊娠葛藤を抱えている女性は、自ら自治体を訪れて相談をすることに躊躇したり、SOSを発信する手立てが思いつかなかったり、あえて公的サービスにはアクセスしない傾向があります
そういう女性に想いを馳せ、支援の手を差し伸べるには、例えば、SNS等を活用した相談体制の整備やアウトリーチ型の支援等の工夫が求められます
とりわけ、経済的支援メニューや居場所等の情報発信は重要であり、若年者や日本語が堪能でない妊婦にも届きやすいよう、情報取得機会の工夫や多言語での対応・発信などのアプローチにも配慮を要します
妊娠した女性が出産するか否かの最終決定をする際の心理的葛藤は、母子手帳交付以前の孤独の中で起きている
そして届出がなされなければ支援の手は届かない現状が今なお続いています
妊娠葛藤を抱える妊婦が頼れる資源
妊娠期から虐待予防をしていくためには、母子手帳交付以前の、妊娠葛藤を抱える妊婦への関心を高める
相談先
すでに各都道府県や政令市・中核市などの保健所には、女性の生涯を通じた健康支援の一つとして「女性健康支援センター」設置が進められており、「予期せぬ妊娠」に悩む者に対する保健師等の専任相談員の配置も推奨されています
同様に市区町村の子育て世代包括支援センターでも相談を通常業務内で随時受けているところが多いです
しかし、「いつでも何でもどうぞ」というフレーズは、デリケートな内容の相談をする側から見るとハードルが高くなりやすいよ!
相談窓口の存在を正しく認識し、妊婦が相談したいと思ったタイミングですぐに相談できるよう体制を構築する必要があります
行政機関以外で、相談する妊婦の立場になって支援をしているのが民間で委託を受けている「妊娠ホットライン」や「妊娠SOS」等です
産科受診等の支援や若年妊婦等に対するSNS相談やアウトリーチによる相談支援、緊急一時的な居場所の提供も行なっています(若年妊婦等支援事業)
産科受診支援
産科受診等支援とは、予期しない妊娠、経済的困窮などの様々な背景があり、自身で医療機関を受診するのが難しいと判断された場合には、NPO等の保健師や助産師が医療機関に同行し、初回産科受診料並びに妊娠の判定に要する費用を助成する資源(母子保健医療対策総合支援事業)
また、必要時には、要保護児童対策地域協議会などを経て、関係者間連携の元で出産までの準備性を高める支援もあり、また母子生活支援施設では妊娠期からの利用も可能となるなど、居場所支援メニューは広がりつつあります
早期の関わりの重要性
中絶と出産という選択肢に悩み続けると、時に、子への陰性感情が強まって胎児への愛着形成に支障をきたすなど、胎児への直接的または間接的な暴力行為(胎児虐待)に至ることさえあるよ!
最近の報告には、妊娠期のうつ病についても産後うつ病と同等の有病率という報告があります
若年妊娠や予期せぬ妊娠、社会的支援の不足も妊娠期のうつ病の危険因子に含まれます
これらの結果を踏まえると、妊娠が判明し母子手帳の交付を受ける判断をする前の、葛藤が生じている早期の段階から精神状態の評価をすること、その結果に対応した予防的な支援を早期に発動させることが重要です
妊娠葛藤への予防策
予期せぬ妊娠の結末として、人工妊娠中絶やAIDSなどの性感染症のリスクがあります
これらにより心身の傷つき体験となることを考慮すれば、予期せぬ妊娠、望まない妊娠に至らない予防策も必要です
性教育
性感染症や予期せぬ妊娠を防ぐために、実際の性行動に移る前の時期、つまり中学生にこそ避妊などの知識を伝える意義があります
しかし、中学高校での性教育は、学習指導要領による「人の受精に至る過程」や「妊娠の経過」、つまり性交は取り扱わないという「はどめ規定」が、子ども達に正しい性の知識を教える機会を狭めています
世界に目を向ければ、ユネスコは幼児期(5歳〜)から幅広く性について学ぶ「包括的性教育」を推奨しています
予防に着目し、教育のみならず保健や福祉分野においても機会を増やしていきましょう
まとめ
妊娠・出産は、身体的変化と自己への関心や深い心理的変化を含んだ危機の時です
また出産によって変化する家族構造や機能、社会との関係性の中で、対人関係能力やそれまでの種々の体験、それらの特性を形成した生活史そのものと向き合う時でもあります
支援者は妊娠期から妊婦の心身の状態や生活背景に関心を寄せ、母子手帳交付に至った背景を推し量る共感的感度を引き上げていこう!
そして深い葛藤を抱えたまま妊娠をした母ー胎児間愛着を予見し、今後、愛着の成立が阻害される可能性のある妊婦には、虐待未発生の段階だからこそ、悲惨な子どもの殺害を含む子ども虐待を予防するためにも手を差し伸べていきましょう
また、支援者としての個人の力を伸ばす・より力を発揮できる場所で働くという点では転職を考えてみるのも一つの方法です↓(保健師の求人も多くおすすめです)
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