母乳育児は母子の心身にメリットが大きいとされ、母乳で育てたいと希望する母親は多いです
その一方で、何らかの理由で授乳に躓き悩みや不安を抱える母親も少なくありません
授乳にまつわるトラブルや困りごとについて、母子保健関係者はどのように母子を支えていくべきなのでしょうか
最近の母親たちの授乳の現状
9割が母乳で育てたい
9割を超える妊婦さんが「母乳で育てたい」と回答しているよ!
しかし、母乳育児に積極的に取り組んでいる病院でも、産後1か月時に母乳育児を行なっている母親は7〜8割程度となり、2〜3割の母親が混合栄養になっています
母乳のメリット
最近のお母さん方は情報収集をよくされているので、母乳の良さを知っている方も多いのですが、母乳の大きなメリットの一つに赤ちゃんの現状に合わせて分泌されることが挙げられまあす
例えば早産児の母親の母乳は、正期産で出産した母親の母乳とは濃度が異なり、生まれてきた子に最適なものが分泌されます
今は育児用ミルクもとても質が良くなっていますが、赤ちゃん一人ひとりに合った濃度が成分で作られるのは母乳の優れている点です
「母乳で育てたい」と思う母親が母乳育児を実現できることは、母親としての自信にもつながる
母乳希望なのに断念する場合
一方で、母乳育児を希望していたのに、分泌量の不足など何らかの事情で母乳育児を断念したお母さんの中には、育児用ミルクを与えたことに罪悪感を抱く方も少なくありません
母乳・ミルクにとらわれ過ぎず、目の前の赤ちゃんを可愛いと思えるような支援が必要だね!
母乳を努力で乗り越えようとする
また、最近のお母さんの傾向として、授乳を「クリアしなくてはいけない課題」として捉えてしまっている方が少なからずいます
女性の活躍が謳われる現代で母親の多くは何事も頑張ることが当然で、授乳に対しても努力して乗り越えるものだと思ってしまうのでしょう
授乳はむしろ上手に肩の力を抜いて、自分の体を信じながらゆっくり赤ちゃんのペースで合わせていくもの
妊娠期から始まる授乳支援
母乳育児への支援は産後からと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は妊娠期から始まります
妊娠期の支援
妊婦さんの体は、妊娠週数のかなり早いうちから、乳首が敏感になったり、胸自体が大きくなったりするなど、授乳に向けた準備が始まっているのです
妊娠初期ではお母さんに「胸の変化を感じませんか?」といった質問をして、体が変化し始めていることを意識してもらいます
妊娠期からお母さんが体の自然な変化を感じ、自らの体への信頼感を育んでいくことが、産後のスムーズな母乳育児につながる
出産時の支援
出産時の支援もとても重要です
母乳の分泌はオキシトシンやプロラクチンなどのホルモンによって促されますが、これらのホルモンの分泌には気持ちの影響も大きいのです
生まれた瞬間に「やったー、生まれたよ。よく頑張ったね」と喜びをパートナーと共有することは、ホルモンへの影響に加え、「私にもできた」という自信につながります
分娩直後の授乳
母親が分娩後できるだけ早く母乳を飲ませられるように援助すること
このとき重要なのは新生児がおっぱいを飲むことではなく、赤ちゃんの肌の感触や赤ちゃんが乳首を吸う刺激をお母さんが受け取ることです
お母さんが生まれたばかりの新生児を胸に抱くと、赤ちゃんの方から一生懸命乳首に吸い付いてきます
そうした我が子の姿を見ることで、本能的に
「私が頑張らなくても、この子は一生懸命飲もうとするんだ」
ということを感じられると思います
赤ちゃんを五感で感じる
また、羊水に濡れた赤ちゃんの肌の感触や匂い、赤ちゃんの体温や体の重みや四肢の動きのインパクトは大きく、こういった刺激を五感で受け取ることでお母さんの授乳へのモチベーションが変わってきます
カンガルーケアが出来ない時
産後できるだけ早く行うことが良いですが、状況によっては、赤ちゃんの素性や、産婦の処置が優先されることもあります
後からでも同様のやり方でお母さんが赤ちゃんからの刺激を受けることで母乳育児への意欲を高めることができるよ!
産後の支援
ホルモンによる母乳分泌
妊娠中、胎盤からは母乳の分泌を抑制するホルモンが出ています
出産後に胎盤が排出されると、母親の体は授乳モードに切り替わっていくよ!
とはいえ母乳は産んですぐに出るのではなく、ゆっくり数日かけて母乳が出るように変化していきます
この間も赤ちゃんは本能で乳首を吸い続けますが、まだ母乳がほとんど出ないためお腹が満たされず、頻繁に起きては乳首を吸う行動を繰り返します
赤ちゃんの体重が増えない
この期間、お母さんは母乳が出ないことを不安に感じて焦ってしまいますが、正期産の赤ちゃんの場合、出生時から15%くらいまでは体重が減っても慌てる必要はありません
赤ちゃんは「弁当と水筒を持って生まれてくる」と言われるように、数日間は凌ぐことができるのです
母乳は消化が良いので、この時期は雀の涙のような1滴でも十分!
仮に早い時期にたくさん母乳を飲ませても、赤ちゃんは胃が小さく、まだ消化能力が弱いので吐いてしまいます
母親にこうした知識と共に「焦らず自分の体の変化を信じていればいいんだよ」と伝える
出なくても吸わせ続ける
ここで大事なのが「出なくても頻繁に吸わせること」です
赤ちゃんが乳首を吸う刺激を与え続けることが母乳に関するホルモンの分泌を促すので、
「母乳を出すには、赤ちゃんに吸わせ続けることが大事だよ」
と伝えます
実際に母乳が出るようになるまでの時間は、個人差もありますし、出産の状況や母子の状態などにもよりますが、安産の場合で頻繁に吸わせ続けると、3〜4日目くらいで胸の変化が感じられ、出るようになることが多いです
授乳が軌道に乗らないケース
授乳のタイミング
本来、産後は親子で横になりながら、赤ちゃんが欲しがるタイミングで授乳をするのが良いです
「自分と子どものペースでいい」
と本能的な授乳のペースに自ら気がつける人ほど授乳がうまくいきます
自分のせい?
一方で、うまく肩の力を抜くことができずに
「授乳がうまくいかないのは自分が悪いのではないか」
と悩んでしまう人もいます
ミルクを足して自信をなくす
そんな人が家族などから
「赤ちゃんがよく泣くのは母乳が足りていないからなのでは」
などと心配され、ミルクを1回足す
ミルクは腹持ちがいいので赤ちゃんがよくなるのですが、そんな姿を見て、
「ああ、やっぱり足りなかったんだ」
と自信を無くしてしまうケースがあります
子育てをしていく上では、助け船としてミルクを頼っても問題ないのですが、1回ミルクを足したことをきっかけに自信を失う母親は少なくないよ!
母乳希望だが混合栄養になった母親への支援
母親の選択に寄り添う
こういったケースは母親が悩みに悩んだ結果ミルクを足していることが多いのです
まず母親に「その選択は間違ってなかったよ」「それでいんだよ」と寄り添う
ミルクを足したことで赤ちゃんがよく眠り、その間お母さんが休めたのであれば、それは大きなメリットです
愛情を共有
その上で、
「ミルクを飲ませても赤ちゃんとあなたの関係は変わらないし、実際目の前の赤ちゃんはこんなに可愛いじゃない」
という愛情の本質的な部分を共有します
親が我が子を心から可愛いと思って抱きしめるときに、他の価値観は入りません
まずはそこに立ち返ればいいと思います
それぞれにあったペース
ミルクにした後でも母親がもう一度母乳育児にトライしたいのであれば、母親の体力が回復してから、赤ちゃんに乳首を吸ってもらい刺激を与え続ければ母乳が出てくるようになります
結果的に母乳とミルクの混合になったとしても、それがそのお母さんの体のペースです
「どんなお産であれ授乳スタイルであれ、それがあなたのスタイルで、素晴らしいことなんだよ」と暖かく見守ろう!
授乳支援で大切なこと
授乳についての思いをよく聞く
一番大事なのは、母親が授乳についてどう考えているのかよく聞くことです
母親が「ミルクのみで育てたい」と思っているならば、それが一番いい選択です
母乳かミルクかの選択と、赤ちゃんへの愛情は別物だね!
ちなみに産後、母乳をやめる理由で一番多いのが復職です
復職の際に「ミルクにしたい」と母親が割り切っているなら問題ないですが、「本当は母乳を続けたいけど無理だろうからミルクにする」といった思いがあるなら、「搾乳して園に持っていくといいですよ」といった知識の補填が必要です
搾乳を行うと、父親にも授乳を分担してもらえます
精神疾患を持つ場合
最近はメンタルに不調を抱える女性が増えている印象を受けます
そういったお母さんは母乳育児を大きな負担に感じることが多いよ!
その場合は精神科医や小児科医、臨床心理士など多職種で連携しながら支援をしていくことが大切です
まとめ
今回は授乳支援について解説してきました
今回の記事の要点をまとめると、以下の3点があります
繰り返しになりますが、母乳育児に悩んでいるお母さんほど、一人で頑張りすぎてしまっていることが多いものです
そうすると赤ちゃんの体重変化や搾乳量など目の前の数字に敏感になり、自分を追い詰めてしまう傾向があります
こうしたサイクルをリセットするには、「どんなお産でしたか?」といったバースレビューなどを通じて、感情を揺さぶられるような親子の原点に一緒に立ち返るところからスタートするといいでしょう
妊娠中に嬉しかったことや生まれてきたときに感じた赤ちゃんを大切に思う気持ちなど、赤ちゃんとの絆のような感情が掘り起こせると、お母さんの気持ちがほぐれて赤ちゃんに向き合えるようになり、結果的におっぱいの状態も落ち着いてくると思います
また、支援の力を伸ばすことも大切です
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