日本のNICUでは小さく生まれた赤ちゃんに対する母乳の重要性はよく認識されており、母親に対する母乳栄養のための支援は積極的に行われています
この記事では、新生児栄養における母乳・人工乳の重要性について解説します
最初の9か月
受精から出生までの9か月間にどのような栄養を与えられるかは、出生後、生涯にわたり影響する
超早産児は、この期間後半の19週間以上をNICUで過ごすため、NICUにおける栄養管理は児の将来にも影響する大変重要な問題です
早産した女性の母乳の特徴
早産した母親の母乳は、正期産の母親の母乳に比べタンパク質、長鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸、Na、Cl、Mg、鉄が多く、また、母乳中の活性消化酵素や成長因子が未熟な消化管の成熟を助け、消化酵素活性を補うことができる
早産した女性の母乳は早産児に適した母乳成分となっているね!
母乳の役割
母乳栄養は、栄養だけでなく「薬」としての役割も兼ね備えています
中でも、壊死性腸炎は現在でも死亡率の高い疾患であり、母乳栄養を含めた予防が重要です
母乳バンク
もともと日本においては、母乳を全く与えたくないという母親は特別な状況を除けばほとんどいません
もし、母親の母乳が得られない状況にあれば、他の女性からの母乳(貰い乳)も、以前は躊躇うことなく与えていました
近年、感染管理の視点からもらい乳の使用を禁ずる施設もあるよ!
そうなると、母乳が得られない場合や何らかの理由で用いることができない場合は人工乳を使うことになり、人工栄養に伴う疾患リスクが懸念されます
先進諸国の小児科学会はこのような場合、認定を受けた母乳バンクから提供されるドナーミルクを用いるよう推奨していますが、これまで日本では母乳バンクは一般的とは言えませんでした
2017年に一般社団法人日本母乳バンク協会が設立され、日本でも広がってきている
ドナーミルクの効果
ドナーミルクによる経腸栄養はその児を出産した母親の母乳より劣るものの、人工栄養に比べて優位に壊死性腸炎の罹患率を低下させます
もし母親の母乳が十分でない、利用できない場合はドナーミルクを使おう!
海外の母乳バンクの状況
母乳バンクは欧州・北米では100年以上の歴史を有し、この10年間にオーストラリア・ニュージーランド、中国、台湾、韓国、フィリピン、シンガポール、トルコなどアジア・アセアニア地域を含めて世界中に新しい母乳バンクが次々と設立されています
母乳栄養の「薬」としての役割が強調されるにつれて、欧州・北米でも毎年新しい母乳バンクが設立され、新生児医療に欠かせないものとなっています
栄養管理で児の予後が変わる
近年、超早産児に対する積極的な栄養戦略が児の予後を改善するという報告も見られるようになりました
この積極的な栄養戦略とは、静脈栄養だけでなく経腸栄養も合わせて生後早期から開始することを示すよ!
生後早期からの経腸栄養
生後早期からの経腸栄養は腸管粘膜の成熟や消化吸収機能を高める作用を有することが報告されている
児に対する栄養は、母親の母乳が最適ですが、母親の状態によっては母乳が得られるようになるまで数日以上かかることもあります。
また、何らかの理由で児に与えられない場合もあります
経腸栄養なしでは、児に対して好ましい栄養戦略とは言えません
このような場合、海外では母親の母乳が得らえるようになるまでの「つなぎ」としてドナーミルクを用いることができます
牛の乳由来成分を排除した栄養法
母乳栄養に母乳由来の母乳強化物質を添加する栄養方法により、超早産児の合併症が減るだけでなく、入院期間の短縮、医療費削減にもつながるという論文もあります
極低出生体重児一人一人の短期予後・長期予後を改善させるためにも牛の乳由来成分を排除した栄養法の実現が望まれます
現状は牛の乳由来の母乳強化物質
母乳またはドナーミルクだけでは超早産児に必要な栄養は与えられないため、母乳強化物質を母乳に添加しています
現在日本で利用可能なものは牛の乳由来の母乳強化物質だけだよ!
授乳と母子の愛着形成
授乳する際に児は素肌の母親と触れ合います
母親は児に話しかけたり、さすったりして、五感を通して触れ合いがなされます
1回に左右15分ずつ授乳をし、それが1日に10回なら15分×2(左右)×10回=300分と、5時間も母親と児の密なやりとりの時間があります
授乳は単に母親の母乳を与えるだけの行為ではないね!
もちろん、人工栄養を選択した場合でも肌と肌とで母親と児が触れ合うことは可能であり、見つめて、声をかけて、優しくさするといった五感を通した触れ合いを意識してほしいです
乳幼児期に確固たる愛着形成を獲得しておくことは、将来のレジリエンスにもつながる
この過程にオキシトシンも関わっており、しっかりと我が子を抱きしめて、五感を通した触れ合いがでいるよう周囲の理解を得ていきましょう
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