予期していない・計画していない妊娠、若年、貧困などの理由で、妊娠中から支援を行うことが特に必要と認められる妊婦は「特定妊婦」と定義づけられています
特定妊婦への支援は喫緊の課題ですが、特定妊婦の定義に当てはまらない様々な社会的困難を抱えた妊婦に対しても、支援の動きが加速しています
この記事ではハイリスク妊婦に対しての支援の現状と課題について解説していきます
社会的ハイリスク妊婦とは
特定妊婦については「出産後の子どもの養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」という国の定義がある
一方社会的ハイリスク妊婦について、国などが定めた定義はありません
厚生労働科学研究で我々が調査する際は、社会的ハイリスク妊婦を「様々な要因により、今後の子育てが困難であろうと思われる妊婦」と定めています
現在の日本では、出産が年間で約86万件あるうちの1割ほどの妊婦が社会的ハイリスク妊婦だよ!
ハイリスク妊婦となる要因
とはいえ、この「医療・医学以外の部分」の線引きは難しいです
例えば、最近はメンタルヘルスの問題が注目されていますが、皆さんも就職や受験など大きなライフイベントを目の前にして憂鬱な気分になったことがあると思います
同様に出産が辛くて逃げ出したくなる人もいて、これをすべて病的と捉えるには違和感があります
なのでこうした部分も含めて「様々な要因」になると考えています
お金がなくても問題なく子育てをしている家庭もあれば、お金があっても子育てがうまくいかないケースもあります
また、婚姻関係がなくてもうまくいくこともあれば、婚姻関係があってもうまくいかないこともあります
さらに、望んだ妊娠でも子育てが苦手だと感じるケースもあります
外から「こういうケースはこうなるに違いない」とは一概に言えない
ただ、子育てが好きになれない、喜びを感じられない人は子育てが困難だし、破綻すると不幸を産むこともあります
だから多様性の中で、そういう人も認めてサポートしていくべきだと思っています
ハイリスク妊婦≠虐待予備軍
必要なのは親子が幸せに生きていくためのサポートで、根本的な方向性として「社会的ハイリスク妊婦=虐待予備軍」という見方は違うよ!
ハイリスクな人たちに向けて「あなたたちは虐待予備軍だからリスクを減らすようにサポートしていきます」というハイリスク・アプローチではなく、社会全体のリスクを下げていくポピュレーション・アプローチを行う中で、全体の平均点を上げていけば、悲惨なケースも減っていくという考えです
「すべての子どもが健やかに育つ社会」の実現を目指すという「健やか親子21」の原点に立ち返った支援が必要です
孤立する母親に向けた社会的支援も必要です
成育基本法の成立や、こども家庭庁の創設もその第一歩と捉えています
子育ては両親だけで背負えるものではないので、外部から手助けしていくための制度や仕組みをいかに構築していくかが重要だね!
支援の現状と課題
多くの自治体で子育て世代包括支援センターなどが整備されていますが、社会的ハイリスク妊婦に対して特別な支援が実施できているところは少ないのではないでしょうか
妊婦の生育背景
社会的ハイリスク妊婦は妊娠するまで何も問題がなかったわけではありません
自分自身が被虐待児として育っていたり、成育歴が少し複雑だったり・・・
一時的な保護や支援をすることはできるけど、どんなに支援をしても母親たちの過去の生育歴を変えることはできないし、辛かった過去の記憶は消せないよ!
支援結果の現状
実はこう言った人たちに対して行政ができることはとても少ないのです
これは特定妊婦の話ですが、厚生労働科学研究班の研究で特定妊婦から生まれて要保護児童対策地域協議会(要対協)に援助が必要とされた子どもを数年間追跡しました。
すると数年後、援助が不要な「終結」となった子は3割程度だったことがわかりました。
妊娠期から不安を抱えている女性や問題のある家庭が、数年経てば問題が改善しているということはほとんどなかったのです
多職種連携の現状
よく「切れ目のない支援を」などと言いますが、現状の支援は「切れ目のある連絡」です。
産婦人科の医師でさえ目の前の妊婦が特定妊婦かどうかを把握していないことがあると思います
背景にあるのは、役所と医療機関との間で情報を共有しにくい状況だね!
虐待児童に関しては、疑った段階で個人情報を漏らしても免責されるという法律がありますが、特定妊婦に関してはそういう規定が明文化されていません
支援が必要な妊婦を拾えていない
さらに、自治体の業務が現場で頑張る方の善意頼みになってしまっている点も今後は課題となっていくと思います
例えば医師の場合、後から振り返った時に、「この医師は必要な検査や治療をしていなかった。だからここまで病状が悪化した」となると、不作為の罪が問われます。
医療ミスが起きた場合も報告を上げなくてはなりません
一方で自治体の仕事について不作為の罪は問われません。7〜8年前に調査をした時には「うちの地域では特定妊婦はゼロです」と回答してくる自治体が多くありました。
でもそれはゼロなのではなく、スルーしてしまっていたということ。
そこをしっかりフィードバックしていくシステムがないと、先には進めません
「一生懸命やってます」という現場の善意に頼るのではなく、制度を作っていく必要があるね!
支援の力を伸ばす
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まとめ
先ほど支援の現場が「切れ目のある連絡」になっていると言いましたが、だからこそ目下必要なのは、中心になって母子のことを考える人材です
母子保健関係者の皆様にはこの役割をぜひお願いしたいです
具体的には、妊婦と相性の良いスタッフが接点を持つことが重要です
いろんな人が入れ替わり立ち替わり行くのではなく、波長の合う一人の担当者が切れ目のない信頼関係を築いていく
そんな中で「私は子育てをしたくないんです」といった思いを吐露されたら「よく言ったね、それでいいよ。あなたはそれでいい」と認めてあげてください
支援の有り様は千差万別です
お金で解決できる部分も一定程度ありますが、それ以上に話を聞くことが大事
「そんなことでいいの?」と思うかもしれませんが、それこそが大事です。
繰り返しになりますが、複雑な生育歴や事情を抱える妊婦に対し、行政から「こうすべきだ」と言えることはなく、話を聞いて寄り添うことしかできません
こうして寄り添ううちに「この人は何をして欲しいのか」「何がネックになっているのか」ということがわかった時に、自ずとその人に必要な支援が見えてくるはずです
また、そうでなかったとしてもこうした対応をしていくうちに、向こうからSOSを発信してきたり、最後の駆け込み寺として連絡してくれたりすることもあるでしょう
支援が必要な妊婦を支えていくのはこうした信頼関係だね
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