幼児の歯並びと噛み合わせ

生涯の健全な口腔機能を維持するためには、良好な咬合を獲得することが極めて重要となります

この記事では、乳歯の萌出と永久歯への交換、咬合の評価と不正咬合の分類、注意が必要な口腔習癖、矯正歯科治療における保険適用等について説明します

乳歯の萌出と永久歯への交換

一般に乳歯は生後8か月〜1歳ごろから萌出開始し、2歳半〜3歳頃までに乳歯列が完成する

最も一般的な萌出順序は、上下乳歯列ともに
乳中切歯→乳側切歯→第一乳臼歯→乳犬歯→第二乳臼歯です

カバさん
カバさん

乳側切歯の次に犬歯が生えずに奥歯が生えてきたり、萌出順序にバリエーションがあったりすることを踏まえ、萌出を観察していこう!

乳歯から永久歯への交換が始まるのは6歳頃です

第一・第二・第三大臼歯のように、先行乳歯の脱落なく永久歯が萌出したり、脱落後になかなか永久歯が萌出しない場合には、歯科を受診しましょう

咬合の評価と不正咬合の分類

歯並びや噛み合わせの異常に気づくとともに適切な情報共有を行うためには、咬合評価の基本的な知識が求められます

前歯被蓋による評価:オーバージェットおよびオーバーバイト

咬合時の上下顎の切歯の被蓋関係については、切歯切縁の水平的被蓋をオーバージェットといい、切歯切縁の垂直的被蓋をオーバーバイトと言います

オーバージェット、オーバーバイとともに2〜3ミリほどが標準的な値です

上顎切歯が下顎切歯と比べて前方位であればオーバージェットは正、逆被蓋(反対咬合、受け口)であれば負の値となります

前歯の噛み合わせが深い場合には、オーバーバイトは標準値より大きくなり、正面から見た時前歯が接触していない状態では負の値となります

乳臼歯の咬合関係の分類:ターミナルプレーン

咬合時における上下顎の第二乳臼歯遠心面の前後的関係を基準とします

垂直型:上下顎第二乳臼歯の遠心面が一平面をなし、垂直であるもの

近心階段型:下顎第二乳臼歯の遠心面が上顎第二乳臼歯遠心面よりも近心位(前方)にあるもの

遠心階段型:下顎第二乳臼歯の遠心面が上顎第二乳臼歯遠心面よりも遠心位(後方)にあるもの

これらの3型を比較すると、遠心階段型では上顎前突、近心階段型では反対咬合を生じやすいです

ただし、垂直型のみが正常咬合を獲得するために必要な発育段階というわけではありません

なお、ターミナルプレーンは前後的位置関係による分類で、垂直的な異常(過蓋咬合、開咬等)あるいは水平的な異常(臼歯部の交叉咬合、鋏状咬合)については評価されていません

不正咬合の分類

叢生

歯列が凹凸であったり、犬歯が低位で唇側転移している状態(八重歯)等のこと

上顎前突

オーバージェットが過大である咬合

上顎前歯のみが前突しているもの(出っ歯)、上顎骨(上顎歯列)が下顎骨(下顎歯列)より相対的に前方位にあるもの、機能的なもの(咬合時に前歯の接触により下顎が後方に誘導される)等がある

後述する口腔習癖との関連もある

下顎前突・反対咬合・交叉咬合

下顎前歯が前突している「受け口」の状態、下顎骨(下顎歯列)が上顎骨(上顎歯列)より相対的に前方位にあるもの、機能的なもの(咬合時の前歯の接触により下顎が前方に誘導される)等がある

反対咬合とは、上顎切歯の4歯中3歯以上が逆被蓋の咬合と定義される場合もある

臼歯部の反対咬合(交叉咬合)がみられる場合には、原因の特定と治療開始時期の検討のために、早期の矯正歯科受診が望ましい

開咬

咬合時に上下の歯列間に数歯にわたる垂直的空隙が存在する状態

一般的には前歯部開咬を意味しており、これは臼歯が咬合したときに前歯部に咬合接触がない状態

前歯で食べ物をうまく噛み切ることができないだけでなく、正しい発音ができないことが多い

後述する口腔習癖との関連もある

過蓋咬合

上下顎切歯の噛み合わせが深い状態で、オーバーバイトが4〜5ミリ以上と過大である咬合

前歯が正被蓋では下顎前歯が上顎前歯に覆われ、逆被蓋では上顎前歯が科学前歯に覆われる

治療開始時期の検討が必要

切端咬合

上下顎切歯の切縁同士が接触する咬合

オーバージェット、オーバーバイトが何もほぼ0となる

乳歯列の切端咬合であれば、永久歯列まで経過観察する場合が多い

鋏状咬合(シザーズバイト)

上顎臼歯が外側に、下顎臼歯が内側に転位(あるいは傾斜)することで、上下の咬合面同士の嵌合が得られず、咬合がすれ違うもの

早期の矯正歯科受診が望ましい

空隙歯列

歯列に空隙があるもの

乳歯列における適度な空隙は、永久歯への交換のためには望ましい

空隙が生じる原因としては、歯と顎の大きさの不調和、歯の欠損、巨舌・舌癖の影響等が考えられる

注意が必要な口腔習癖

口腔領域における不良習慣があると、歯の萌出不全・不正咬合、う蝕・歯周疾患、咬耗・咬合性外傷、言語機能の障害、顎関節症、口臭、等の様々な症状が引き起こされます

ただし不良習癖の中には、小児の精神・社会心理的背景を考慮すべきものもあり、適切かつ慎重な審査・監察と対応が求められます

吸指癖・咬爪癖・咬唇癖・吸唇癖・タオル(ガーゼ・毛布)しゃぶり

上顎前突や開咬の原因となり得るので、歯科的には3〜4歳頃までには辞めさせたい

舌癖(異常嚥下癖、舌突出癖)

嚥下時や発音時に舌を突出させるもので、下顎前突、開咬、あるいは空隙歯列の原因となり得る

できれば就学前に辞めさせたい

なお、舌癖が舌小帯強直症に起因している場合もある

口呼吸

通常の鼻呼吸ではなく、口で呼吸するものであり、上顎前突や開咬の原因となり得る

アデノイド、鼻中隔湾曲症、慢性副鼻腔炎による鼻閉は、鼻呼吸を妨げるので口呼吸の原因となり得る

そこで歯科においては、鼻閉等の原因以外で習慣性に行う口呼吸を特に不良習癖として扱うとの考え方もある

歯軋り・食いしばり・TCH

TCHは上下の歯を持続的に接触させる癖である

持続的あるいは間歇的な力による歯列や頭頚部筋の協調への影響、顎関節症の原因となり得る等の点で注意を要す

矯正治療に保険適用される疾患

カバさん
カバさん

特定の疾患に起因した咬合以上に対して行われる矯正歯科治療については、保険診療の対象となるよ!

先天性疾患に伴う不正咬合の矯正歯科治療については、令和2年度の保険改定時点での対象は、およそ60疾患と顎変形症、及び「前歯3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常(埋伏歯開窓術を必要とするもの)」となっています

これら疾患の中には、口唇口蓋裂、ダウン症候群、及び第一第二鰓弓症候群のように比較的歯科受診患者数の多い疾患が含まれますが、大半は歯科における希少疾患です

一方、平成30年度より「その他顎・口腔の先天異常」との項目が追加され、これについては「顎・口腔の奇形、変形を伴う先天性疾患であり、当該疾患に起因する咬合異常について、歯科矯正の対象とすることができる」と説明されています
希少疾患を見逃すことなく矯正治療の適応を広げようとするものです

少ない医療費負担で患者が矯正治療を受けられるように、矯正歯科治療の保険適用疾患の知識を持って、矯正歯科専門の医療機関に紹介してもらいましょう

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